第3回では、採択を引き寄せるための「審査の観点」と「加点要件」を深掘りしました。合格ラインを突破する設計図が描けたら、次に着手すべきは「具体的に何に資金を投じるか」という経費明細の策定です。
第19回公募(一般型)において、補助対象となる経費は全8種類に定義されています。今回は、これらの費目を単なる「買い物リスト」に終わらせず、経営課題の解決と将来の収益向上に直結させるための戦略的思考を紐解きます。
1. 全8費目の正確な定義と活用イメージ
公募要領(第5版)に定められた対象経費は以下の通りです。
- 機械装置等費:事業に直接必要な機械装置の購入(製造装置、専用ソフト、冷蔵庫等)。
- 広報費:パンフレット、チラシ、看板、広告掲載等、販路開拓のための広報。
- ウェブサイト関連費:商品販売やサービス提供を目的としたHP制作、ECサイト構築、SNS広告、SEO対策等。
- 展示会等出展費:展示会や見本市への出展料等(オンラインによる展示会・商談会等を含む)。
- 旅費:販路開拓(展示会出展や商談会参加)を目的とした宿泊代や交通費。
- 新商品開発費:新商品の試作品開発に伴う原材料、設計、デザイン等の経費。
- 借料:事業遂行に必要な機器・設備のリース・レンタル料。
- 委託・外注費:店舗改装や専門的なコンサルティング等、自社で実施困難な業務の外部委託。
これらを選択する大前提は、事業者が自ら策定した持続的な経営に向けた経営計画に基づく、販路開拓等
の取組(例:新たな市場への参入に向けた売り方の工夫や新たな顧客層の獲得に向けた商品の改良・開発
等)や、販路開拓等と併せて行う業務効率化(生産性向上)の取組に直結していることです。
2. 【最重要】ウェブサイト関連費の「2つの制約」
現代の経営に欠かせないWeb活用ですが、本補助金には非常に厳しい制限があります。ここを見落とすと、不採択や交付決定額の大幅な減額に繋がります。
- 「1/4制限」:ウェブサイト関連費は、補助金交付決定額の1/4までしか充てることができません。例えば、補助金50万円の受給を目指す場合、Web関連に計上できるのは最大12.5万円です。
- 「単独申請の不可」:ウェブサイト関連費のみでの申請は認められません。必ず他の費目(①②④⑤⑥⑦⑧)と組み合わせる必要があります。
この制限は、国が「単にサイトを作るだけ」ではなく、リアルな設備投資や営業活動を組み合わせた、多角的な事業展開を求めていることの表れです。
3. 本質的な費目選択: 「欲しいもの」を「課題の解決策」へ昇華させる
現実として、多くの経営者には「補助金を使ってこれが欲しい」という具体的な設備や広告のイメージが先にあるものです。しかし、計画書にそのまま「〇〇が欲しい」と書くだけでは採択は遠のきます。
重要なのは、「経営課題」から「費目」への論理的な逆算、そしてその先の「具体的な成果」の数値化です。
欲しいものを「必然の投資」に変える5つのステップ
たとえ「最新の厨房機器が欲しい」という動機がスタートであっても、計画書では以下のステップで語る必要があります。
- 経営環境の分析:近隣に競合が増え、テイクアウト需要が急増している(外部環境の把握)。
- 経営課題の特定:自社の供給能力が限界に達しており、機会損失が発生している(課題の設定)。
- 事業の実行計画:調理工程を半自動化し、提供スピードを2倍にする(解決策の提示)。
- 費目の選択:そのために「機械装置等費」として真空包装機を導入する(必然的な帰結)。
- 事業効果の数値化(収益計画):導入により、1日あたりの提供可能数が20件増加する。客単価1,000円と仮定し、平日月16日間は提供見込み5件増、休日月8日間は20件増で、月の売上は24万円向上。これに伴い、今後3年間で売上、営業利益がどう推移するかを、地に足の着いた根拠(客数、客単価、リピート率等)に基づいて算出する。
このように、費目は「経営課題を解決し、具体的な収益を生むための手段」として配置されなければなりません。環境分析から導き出された「客数・単価・利益」のシミュレーションが伴って初めて、その投資は審査員にとって「納得感のある計画」へと昇華されるのです。
4. まとめ:経費明細は「経営判断の結晶」
計画書に記載する経費明細は、単なる予算の割り振りではありません。それは、経営者が自社の課題を正しく把握し、その解決のために「何が不可欠か」を考え抜いた結果、導き出された結論です。
費目一つひとつに対し、「なぜこの投資が、3年後の自社の姿に直結するのか」という根拠を、環境分析に基づいたストーリーとして語り切ること。その緻密なロジックこそが、審査員に信頼を与え、採択後の確実な事業成果を保証するのです。
次回は、いよいよ本連載の締めくくり。「採択後が本当のスタート」です。補助金を一過性の資金で終わらせず、確実に実績報告を行い、将来の成長に繋げるための運用術についてお話しします。

